13. ネックが 押す方向 。

ヴァイオリンの ” 響 ” で重要なのが ネックの向きです。 左側の 1525年頃と 右側1607年の リラ・ダ・ブラッチオを見てください。 注)1  5本の演奏弦の左外にある2本は響胴の ネジレを増やすために取り付けられています。 ネックはもともと 側を向いていますが 2本の ” レゾナンス弦 ” の張力をあげるとネックがより 側を向くこととヘッドが激しく揺れることで 響胴が出す低音域の明瞭感がふやせます。 ヴァイオリンはこれらの要素を踏まえて誕生しました。

オーストリア・チロル地方 Absamの弦楽器製作者である Jacob Stainer( 1617~1683 )がヴァイオリン製作を語る上で重要であるのは先にふれましたが、彼の考えを指摘するためにヴィオラ・ダ・ガンバ ( Bass Tenor )の写真を Walter Hamma 編で1986年に出版された “ Violin-makers of the German School from the 17th to the 19th century ” のvol.Ⅱの339ページより引用いたしました。

ネックの下端がしっかり中央より 少し側を軸( 白線 )として揺らすように合わせてあり アッパー・バーツのクロスバーも軸を意識して配置してあります。 その上 ネックと側板の両側接合部の ” アソビ ” の豊かさは 私には少しショックに思えました。

 

 因みに Jacob Stainer( 1617~1683 )の Viola da gamba ブロック 注)2 の写真を参考のために下左側 にあげておきました。 それから3枚の中央に 16世紀にイタリアで製作されたリュートのブロック部 注)3 の写真もあげました。 シュタイナーの ヴィオラ・ダ・ガンバと同じく ネックの下端 ( ライン )と垂直の軸 ( 白線 )が中央より2.3度 側に向けてあります。 それから右側は オックスフォードのAshmolean Museum のコレクション・カタログ第33項 注)4 より17世紀にイタリアで製作された シターン を参考に挙げました。 シターンのネック断面は 「 L字型 」 で胴体を正面から見たときに中心より 側を軸 ( 赤矢印 )として揺らすように作られています。

チェック項目の5つめで紹介しました Carlo Antonio Testore ( 1693~1765 )が1740年頃制作した表板が一枚板のヴァイオリンです。 この表板の特性をみるためにサドルの位置で “ 中央 ”  a に位置する年輪を一本選び赤線でトレースしたのが下の赤線 a-bです。 このヴァイオリンの表板材が少しだけ “反時計回り”なのは ネックが揺らす軸と合せたからだと考えられます。 下の図のように ネツク部中央の “針痕”から 左回り 1.6度 で白線をひくと年輪と並行で 7個のにある 針痕”をつなぐ『 軸線 』があらわれます。

 

現在の楽器修復者の認識レベルがよくわかる写真がウェブサイトでありましたので参考のために貼っておきます。

さきに触れましたがイタリア語 Liutaio やフランス語 Luthierである リュート製作者がヴァイオリンを製作しました。 当然同じ軸組みでヴァイオリンは ゆたかな ” 共鳴音 ” を持つ弦楽器として完成しました。

13ヶ所めのチェック・ポイントは ” ネックが 少し右側 ( )を向いているでしょうか?” です。 なお 左側 ( 側 )を向いていると3番、4番線が 『 歌います 』が1番線の鳴りが悪くなります。 現代型でよく見られますが 中央揃えは胴体の” 共鳴音 ” をかなり止めてしまうので避けたほうが賢明です。

注)1   左側写真は1979年重版の ” The Hill Collection of Musical Instruments  –  in the Ashmolean Museum , Oxford ”  First published 1969 David D. Boyden の 第8項の Giovanni Maria of Brescia , made in Venice , c.1525 よりの引用で、右側写真は 2006年に出版された ” The Emil Hermann Collection ” Part Ⅰの10ページより Girolamo Amati Ⅰ( 1561~1630 )が 1607年に制作した Lira da Braccioです。

注)2 2003年にウィーンで開催された ” Jacob Stainer  –  kayserlicher diener und geigenmacher zu Absam ” Rudolf Hopfner による展覧会カタログの 110ページより引用しました。

注)3 1993年にボローニャで開催された ” Strumenti musicali europei del Museo Civico Medievale di Bologna ” John Henry van der Meer より 出品番号 97 の写真を引用しました。

注)4 1979年重版の ” The Hill Collection of Musical Instruments  –  in the Ashmolean Museum , Oxford ”  First published 1969 David D. Boyden の第33項より引用いたしました。