すでにオールド・ヴァイオリンをお使いの方はご存知だとは思いますが、 ヴァイオリンを平らなテーブルの上に置いても水平にはなりません。 上の Matteo Goffriller のヴァイオリンように左側が下がり右側が上がります。 これは裏板のアーチのピークが 1番線( R側 )にずらしてあるためです。 裏板のアーチを見るときは断面が 『 へ 』の字型をしている事を意識してください。 参考として下に1998年に フランクフルトで Bochinsky より Hermann Neugebauer さんと Gerhard Windishbauerさん達が ” 3 D-Fotos Alter Meistergeigen ” のタイトルで出版した研究書より 43, 38ページと 表紙の 1686年のアンドレア・ガルネリ の3枚の写真を引用させていただきました。
ご覧のように光学機器を使用して裏板に等高線を出現させれば裏板アーチのピークが微妙に R側に位置付けられているのが なんとか見えると思います。
ところで 本稿のテーマである名器の ” 響 ” を見分けるためには もう一歩踏み込んだ観察が必要です。
ということでチェック・ポイントの 15ヶ所めは 『 センターライン付近に裏板の削りこみで ” 節 “が設定されているかどうかを観察してみましょう。 』です。
左側は Stuttgartの Walter Hammaが 1964年に出版した ”Italian Violin makers ” の 556ページに掲載されている Giacinto Rugieri ( Worked 1665~1700 )が1690年に Cremonaで 制作したとされるヴァイオリンの写真です。 私はこの裏板ジョイント部の窪みは制作時に彫り込まれた可能性が高いと考えています。 その根拠として 前出の Andrea Guarneri (1626~1698)が 1658年頃制作したヴァイオリンの写真を2枚あげました。 上中央がスタジオで撮影されたもので右側が私の工房で撮影したものです。 4つめのチェック・ポイントでお話したように光線角度を変えてヴァイオリンの凹凸が写るように撮影したのが右の写真です。 右側の写真で楽器ジョイント部に窪みが ” 節 ”として彫り込まれているのが見えると思います。 私はこの窪みの役割を 左右に2つベースを生じさせ それぞれがF字孔外側ウイング部を揺らす起点( ベース )としての役割をスムーズに果たすようにするとともに、回り込んでくる波を遮断する分離帯としても役立たせるために取り入れられていると考えています。 このように強い”節”を彫り込んだヴァイオリンは少数派ですが下左2枚の Matteo Goffriller や下右2枚の Nicola Gagliano のヴァイオリンように Lower boutsのラインとセンターラインの交点の窪みが確認できる弦楽器はかなり多いようです。
この裏板中央部についている窪みが製作者によるものかどうかしばらくの間 決め手に欠ける状態が続きましたが7年程前に下の写真にあるヴァイオリンと出会い 即座に解決しました。 Stuttgartの Walter Hamma の 1976年発行の鑑定書で 1780年頃 ローマ派の製作者が作ったとされているこの楽器は、 窪みを彫り込む代わりに裏板のジョイント付近に少し時計回りにずらして 『 スジ状の焼痕 』 加工を加え 彫り込まれた窪みと同じ効果が出るように工夫されています。 チェック・ポイントの 15ヶ所めは 『 センターライン付近に裏板の削りこみで ” 節 “が設定されているかどうかを観察してみましょう。 』にはこの『 スジ状の焼痕 』 加工まで含みます。 彼らの能力には本当に敬服します。