1795年のネックの原型を留めたバイオリンです。

バイオリン工房の仕事をしていると たまに 『  ほぉーっ! 』 と思う楽器を目にします。 ご存知の方も多いでしょうが バイオリンのネックと指板の形状は 19世紀の前半まで現在とちがう作りになっていました。 上から 1668年、1690年頃、1715年頃の製作とされるバイオリンのネック写真を参照のためにならべてみました。

今回ご紹介するバイオリンは 1795年にウィーンで製作されて、ウィーンフィルの弦楽器として有名になった ゲオルグと フランツ親子の工房で販売された ゲオルグの弟 マティアス・ティアー ( Mathias Thir  1741 ~ 1806 )が製作したものです。

オーストリアを旅行中の方が購入しそのまま使用されていますが、ネックが 126.8 mm で 指板との間にゲタをはかせペグボックス上部が少し削られたのを除けば ほぼ製作時の状態が保たれています。 指板の幅はナット部で 20.9 mm であったり、 点Eのヘッド・ヒール位置が現在よく使用される 130.0 mm 設定となっていたり、オリジナルのボタン部は高さ 9.5  mm で幅が 19.8 mm だったりします。 ヘッド長は 107.6 mm で 下にあげた写真でわかるようにペグ・ボックスがオリジナルの状態でナットのきわまで彫りこんでありますので、ペグボックス長が通常より 4 ~ 4.5 mm ほど長くとってあります。 このバイオリンのパーツ無しの重量は 320g でした。

   

マティアス・ティアー ( Mathias Thir  1741 ~ 1806 )が この時期に製作したバイオリンは この楽器のように表板、裏板ともに一枚板のものが多いのが特徴です。 私は この事もまた興味深く思っています。