19世紀以降衰退しますが 18世紀の末まで 梯子 ( the ladder )状または窓枠状 ( the window )のヘッドを持った弦楽器が数多く作られました。
へッドが 梯子状だと胴体の 「 ネジレ 」と同調しやすくなり 低音域の”共鳴音”がゆたかになりますが、高音域の上音が少し減少します。 これらの要素を考慮した上に 弦の改良などの追い風をうけて「 高音域をより取り込んだ 」弦楽器として誕生したヴァイオリンは窓枠をはじめから塞ぎ ”ペグボックス” 型としてつくられましたが 窓枠をふさぐ厚さは注意深く選ばれています。 例として 1566年頃製作された アンドレア・アマティ ( c.1505~1579 )の ” The charles Ⅸ of France ” 注)1 と ニコロ・アマティ( 1596~1684 )の 1658年 ” Hammerle ” 注)2 そして アントニオ・ストラディヴァリ ( c.1644~1737 )の 1715年製とされる ” Cremonese ” 注)3 の 3台のヴァイオリンのX線画像をならべました。
まず左側のアンドレア・アマティの窓枠を塞いだ部分( フロア )が目につきます。 ヴァイオリンを製作した経験のある人にとって フロアの最薄部が1ミリ程という事実は驚きです。 この ヴァイオリンのヘッドが ”剛”でなく ”柔”なのは釣り合う胴体部が “柔”であることを意味しています。 ですから お孫さんの ニコロ・アマティ が 最薄部を3ミリ弱としたのも 胴体側の ”節”が強化されたのを暗示しています。 名器と呼ばれる弦楽器の制作家にはこれらの意識がしっかりと受け継がれていたようです。 参考として 1754年に ガリアーノ兄弟 ( Giuseppe 1726~1793 , Antonio 1728~1805 )が 制作したヴァイオリンの フロアの厚さを計測した数値を下にあげておきます。
このヴァイオリンのフロアーは 直線定規を E線ペグ穴下から ペグボックスの上端 ( the end of the pegbox )まであてて確認しましたが 図上の赤線のように ほぼ一直線でした。上端の厚みは書き込んでいませんが1ミリで最薄部のゾーンが 2ヶ所も設けられています。 あと2台を例としてあげると 1791年の Giovanni Battista Ceruti の ” ex Havemann “は フロアの最薄部が 2.4ミリの最厚部が 3.3ミリで、モダン・ヴァイオリンでも 1837年の Giovanni Francesco Pressenda ( w.1777 ~ 1854 )は 最薄部が1.0ミリの 最厚部が 2.7ミリという作りになっています。
さて 7つめのチェック・ポイントは ペグボックスが深く彫り込まれているかどうかです。 ここまで例示した良いヴァイオリンと違いフロアーの厚みまで考えがおよばず製作された後代のヴァイオリンのペグボックスのフロアーの厚さをみると 最薄部が 3.5ミリ以上で 最厚部が 4.5~5.5ミリほどが多いので、どうしてもフロアまでの深さが浅く感じられます。 逆にオールド・ヴァイオリンに学んだヴァイオリンは フロアーまでの深さがあり、ペグボックス上端 ( the end )も深く彫りこまれているように感じるはずですから 見分けるのは容易いと思います。 この 1~ 2ミリの差はペグボックスの動きやすさに激しく影響します。 この意味がわかる人には下に挙げさせていただいた ミラノの Carlo Giuseppe Testore ( c.1665~1716 )が 1703年に制作したヴァイオリンと、Carlo Antonio Testore ( 1693~1765 )が1752年に制作したヴァイオリンの背中のフラット仕上げの理由も推測できると思います。
注)1 2006年 クレモナで開催された ” the Amatis’ DNA – A Dynasty of Stringed Instrument Makers in Cremona ” の展覧会カタログの 50ページと 1994年の ” トリエンナーレ ” 展示会カタログの 19ページから引用しました。
注)2 上と同じく2006年 クレモナで開催された ” the Amatis’ DNA – A Dynasty of Stringed Instrument Makers in Cremona ” の展覧会カタログの 50ページより引用しました。
注)3 1991年の ” ENTE TRIENNALE INTERNAZIONALE DEG