彼は、先端の白羽と 15本の枝を交互に組み合わせ均衡させ、それをスタンド上に置きました。私のお気に入り動画です。
この動画で 白羽を スクロールに見立て、それを支える4本の枝をペグボックスとみなし 次の3本がネック部で、残り8本が響胴といった具合にイメージしてみてください。
『 Performing Seal 』 1950年
私は、それら要素( エレメント )の接続点が “回転運動”を誘発しやすいように工夫してあることが “オールド・ヴァイオリン”の響きを生み出していると思っています。
それに加え、ヘッドとネック そして響胴の関係のように、 “偶力”による 単純な回転運動より もっと高度な条件設定がなされている事もすばらしいと感じます。
“オールド・ヴァイオリン”において 非対称に『対』とされたエレメントが生み出す運動の持続性は、バトン・トワリングの バトンや ブーメランの原理の複雑ヴァージョンの様にすら思えます。
バトンは 中央の棒をシャフトと言い 両端のおもりは 大きい方がボール、小さい方はティップと呼ばれています。この道具で最も重要なのは ボールとティップの重さが異なることで重心がシャフトの中心からずらしてあることです。
この結果‥ バトンを空中に回転させながら投げあげると 回転運動を持続しながら落ちて来ます。もし両端が同じ重さだったら 重心が中央に来てしまうので 回転運動だけでなく並進運動もおこりやすくなり、不安定となってします。
これは、ブーメランなどにも共通しています。
“オールド・ヴァイオリン”では、ねじりを反復させることで 響胴の共鳴が増やせるので‥ つりあいにくくする工夫が多用されています。
この視点を持つと・・ 現在、世界各地で製作されているヴァイオリンの多くは、 響胴の”ねじり”が不足していることで 多くの不具合に陥っていると推測できます。
そこで 私は、その確認のためにも本当の響きを疑似体験することをお薦めしています。
Alessandro Bonvicino( ca. 1498–1554 ) Brescian 1530年頃
Alessandro Bonvicino detto il Moretto da Brescia ( c.1498-1554 )1530年頃
アレッサンドロ・ボンビチーノは ヴァイオリンという楽器が誕生した時期に ブレシアとヴェネチアで活躍した画家で、すばらしく緻密な油画などを残しました。
この絵画にある楽器もそうですが‥ この時期に製作されたリュートや、ヴィオール属、ヴァイオリン属の弦楽器の中には、下のアシュモリアン博物館に展示されている古楽器や、ジロラモ・アマティの リラ・ダ・ブラッチョのように『 回頭機構 』を持った弦楽器が遺されています。
そこで、私は 次のような検証実験をおこないました。
先ず、この実験に使用するために アレッサンドロ・ボルティーニ氏が 1985年に製作したヴァイオリンと、サンドロ・アジナリ氏が 2000年に製作したヴァイオリンを用意しました。
Alessandro Voltini( born in Cremona, 1957 ) violin 1985年
さて、実験は簡単です。私たちが日常的に使用している輪ゴムを 1回の実験で 1本使用しますので 数本準備します。そして、まずなにもしていない状態で鳴らします。それから写真にあるように輪ゴムをかけて同じように試奏してみます。
私はこれまでこの手法を頻繁に試して その結果を知っていますので‥ 皆さんが ご自分のヴァイオリンで試した場合でも響きの差は 驚愕するくらいに違うと思います。
この時 なるべく比較し易いように私は輪ゴムをかけた状態で 1分くらい鳴らしたら、それをハサミなどで切ってはずして すぐにまた試奏をして違いを確認しています。『 無し→有り→無し 』で1回で 、これを2回くり返し 響きの変化を聴き分ければ 実験としては十分だと思います。
なお‥ 私が 実験に使用した輪ゴムは下写真にあるものです。
それから アジナリ氏が製作したヴァイオリンに取り付けられたペグは 輪ゴムが引っ掛かりにくかったので、市販されているセロテープで止めました。
この実験は輪ゴムの張力( 約0.36kg )で ヘッドの回転運動などのゆれや、響胴のねじりを増やしたことによる響きの変化を確認するものです。
Sandro Asinari( born in Cremona, 1969 ) violin 2000年
念のために申し上げれば、もしペーター・インフィールドの4本セットを張っていたヴァイオリンで、E線を コレルリ・アリアンス・ヴィヴァーチェに変更すると 計算上 0.5kg ほど 張力が増えます。
これとは逆に張力が約 8.3kg のペーター・インフィールドE線を張力が 7.2kg 程とされているドミナントのE線にすれば約 1.1kg 減ることになります。
このような状況でヴァイオリンは使用されていて、それでも 強度上の大きな問題は起っていないことと、輪ゴムの張力が弦 4本の合計張力の 2%以下であることから、この実験には 特に問題はないと私は判断しています。
そして‥ 今回 実例として挙げさせていただいた ヴァイオリン 2台を用いた実験でも、響きに劇的な違いがあり その考察によって 多くの気づきがあった事を ここにご報告いたします。
2022-4-09 Joseph Naomi Yokota