これは、私が自分の娘に与えた 英国製ヴァイオリン弓フロッグ写真を、横方向だけ10倍に拡大したものです。
実物は、スティックが ねじり軸( Center of torsion )の位置で フロッグに対して0.8° 程右回転しているだけなのですが、横方向に拡大することで フロッグ( 赤線 )と スティック ( 青線)のズレを 7.4° に変換して “ねじり( twist) ” 設定を分かりやすくしました。
George Hart Ⅱ( 1860-1939 ) Violin bow ( 59.1g ), London 1885-1890年頃
これを、フランソワ=グザヴィエ・トルテ ( 1747-1835 )の ヴァイオリン弓で見てください。
François Xavier Tourte( 1747-1835 ) Violin bow Muntz 1790年頃
この トルテ ( 1747-1835 )弓は、フロッグから見ると スティックが 0.4° 程右回転していると考えられます。
私が作図した横方向拡大図では フロッグ( 赤線 )と スティック ( 青線)の”ねじり( twist) ” 設定は変換値で 3.4° となっています。
では、このトルテ弓では どうでしょうか?
François Xavier Tourte( 1747-1835 ) Violin bow, Library of Congress “Russian” 1800年頃
画像で見る限るですが、この弓は、フロッグから見て スティックが 1.2° 程 右回転しており、フェルール( Ferrule )端は フロッグに対して 2.0°程 逆方向に傾斜させてあると考えられます。
François Xavier Tourte( 1747-1835 ) Violin bow, 1825年頃
“$ 288960” sets world record auction price. ( 5 November, 2015 )
次に、現在 日本円で4000万円を超えている、このトルテ弓では どうでしょうか?
馬毛が空中に出る フェルール( Ferrule )端の角度も ねじりの強化に寄与しており、シブいですね!
François Xavier Tourte( 1747-1835 ) Cello bow, 1820年頃
因みに、彼が製作した非対称曲線フェルール端は、この傾斜角度が意志的であることを最も美しく象徴していると思われます。
François Xavier Tourte( 1747-1835 ) Cello bow, 1825年頃
フランソワ=グザヴィエ・トルテ ( 1747-1835 )の製作した弓でもそうですが、”オールド弓”では フェルール( Ferrule )端は 水平ではなく 2.0°程 傾斜させてあるのが標準的であると言えるようです。
Dominique Peccatte( 1810-1874 ) Bow ” Left-right composition” Paul Childs – The Peccatte family 1996 / P113
それから、これはペカット弓の パール・アイ位置が左右ずれている資料( “ねじり”設定と推測できます。)として、左右合成で作成された画像です。この ペカット弓は スティックが ねじり軸( Center of torsion )の位置で フロッグに対して1.7° 程 左回転していると思われます。
このように 私はオールド弓では “ねじり( twist) ” 設定の検証が重要であると考えています。
なぜなら、オールド弓では 線分ABの馬毛が 弦を細やかに振動させるために過度に堅くしない工夫として、ヘッドの高さ線分BDの中点と 線分ACの中点位置に、中央軸( 線分L1-L2 )が生じるように設計したと考えることがでるからです。
この時、線分BDが 例えば 24.0mmであれば、線分ACも 24.0mmとなり、点Cは アイレットのスクリュー穴の中心とされていたようです。
François Xavier Tourte( 1747-1835 ), Violin bow 1790年頃
そして、ヘッド部は 中点位置に 交点L1が生じるように”S”字型尾根 ( “S” shaped ridge )加工がなされ、フロッグ側にも線分CDと 線分ABを平行させないことによる『 微妙なねじり( Center of torsion ) 』によって 交点L2を生じさせる仕掛けを見ることができます。
この結果、中央軸である線分L1-L2が “節”として弓のなめらかな直線運動をしっかり支え、それによって線分ABの馬毛が”腹”としての自由度を得て、弦を繊細にゆらすことに貢献していると考えられます。
このとき、線分ABと対となる 線分CDの基点 点Dは ねじりが生じやすい華奢なL字型とされ、点Cの アイレットとスクリューの接点では噛み合せ部の隙間などによる『 遊び 』( バックラッシュ Backlash ) などによって スムーズな”ねじり”を生じさせるために、ネジ山数が 2.5~4.5本という最小限の設計とされたと推測できます。
そして これらの工夫によって、穏やかに演奏するときには中央軸である線分L1-L2 の重さで馬毛に丁度良い圧力が加えられるだけでなく、演奏者が強い表現で弦楽器を鳴らしたいときには、上図の赤塗りで示した三角ゾーンが “節”として機能していると 私は考えています。
イメージ図として鏡面組み合わせを作画してみました。お解りいただけるでしょうか。
ルネサンス期からの弓の変遷を調べると、先弓を使用する場合も、元弓の場合も “腹”となる馬毛の “対”として三角ゾーンがしっかり支える設定を発展させたことで、スティックを長くすることが可能となったという歴史が理解できると思います。
History of the violin bow
2023-4-06 Joseph Naomi Yokota