Marco Gandolfi, violin Cremona 1994年
これは先日 整備のために私の工房に持ち込まれたヴァイオリンのヘッド部です。
私は、この挑戦的なペグは 製作時のままだと判断しました。
なかなか面白いアイデアでしたが 残念ながら 彼が製作した響胴とは調和していませんでした。
それでも‥ 私は このように糸巻きの長さを意識して弦楽器を製作する人を すばらしいと思います。
ところで、糸巻きの役割を皆さんご存知でしょうか。
私は ペグ機構は 単に弦をチューニングしながら固定する役割のほかに、響胴のゆれに積極的に影響をあたえる仕組みとして考案されたと考えています。
これは下の写真のように糸巻きをはずした状態と 4本とも取り付けた状態、それから左側の D線、G線ペグ 2本を取り付けた状態と その逆に右側だけなど いくつか条件を変えて揺らしてみると 響胴部の固さが変わったり 重心位置が移動しますので ‥ 可能な方は 実際にゆらしてみることをおすすめします。
参考としての実験は こういう感じとなります。
糸巻きでヴァイオリンのゆれ方が変わることを確認したら、最後に エンドピンを差し込んでから 同様にヴァイオリンを揺らしてみてください。
ヴァイオリンの重心が手元近くに移動するので、ヴァイオリンが軽くなったように感じるはずです。
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それでは‥ そもそも歴史の上で 糸巻きの長さはどういう変遷をたどったのかをすこし見てみましょう。
この写真は 1909年頃にユトランド半島の 小さな町 ブレデブロ( Bredebro of Southern Denmark )で撮影されたようです。ここは 1866年にドイツに併合されたドイツ北端の都市フレンスブルク( Flensburg )から北西に30㎞ほど離れた場所です。
下の拡大写真のように 左側の 2人は短い糸巻きで右側の男性は長い糸巻きの楽器を使用しています。写真は 実にわかりやすいですね!
このように 1900年代の初頭に撮影された弦楽器の写真には 長短の糸巻きが混在しています。
Still-Life with a Violinist 1620年頃
ヴァイオリンの黎明期にさかのぼりますが 1620年頃に製作されたこの油画にも 短い糸巻きを見ることが出来ます。
また 私は 下のような版画にも 十分資料としての価値があると考えています。
John Gunn “The Theory and Practice of Fingering the Violoncello” 1789年
それから、この 著名チェリストの肖像画でも糸巻きが短かったことがわかります。
Bernhard Romberg ( 1767-1841 ) 1815年
結論としては‥ 私が調べてみた限りでは 現在のように長い糸巻きが一般化したのは第一次世界大戦以降のようです。
さて、音響上の証明は残念ながら 実際に設定してみるしかありません。
因みに 私が先日整備のために お預かりしたヴァイオリンの糸巻きは下の写真の設定に変更し響胴の共鳴が起りやすくなりました。
興味がある方は この糸巻きの長さ設定を試してみてください。
この投稿はここまでです。
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2016-11-09 Joseph Naomi Yokota