私は ヴァイオリンという楽器は ビオラやチェロと比べて共鳴現象が不全でも F字孔がエネルギー変換の受け皿になりやすいため、チェロやビオラと比べて 破綻しにくい弦楽器であると考えています。
逆に言えば、チェロやビオラは響胴の共鳴部が十分に機能しなければならないので 変換効率の側面から、完成度の高いものを製作することは ヴァイオリンを製作するより相対的にむずかしいと言えます。
Joseph Naomi Yokota Violin, Tokyo 2008年
そこで 私は「オールド弦楽器」の特徴から 音響システムとして仮説を立てた上で、まず 検証ヴァイオリンの製作を 2004年11月11日に着手しました。これは 7年程の期間に及びましたが、試行錯誤しながら 7台のヴァイオリンを製作しました。
そして この過程で 仮説の音響システムに修正を加えながら、それをヴァイオリン族のプロト・タイプとして確定させました。
この準備を経た 2011年3月7日に、私は いよいよ‥ チェロの設計に取りかかりました。
ここから この時に製作した、私にとっての 原型チェロ ( Prototype cello ) の お話しをさせていただこうと思います。
■ 響胴の軸組み調整
これは 響胴に組み上げに着手したところで、ネックやF字孔の設定と 駒位置やブロック配置により 表板と裏板の基本となる軸線の組み合わせのバランスを修正しているところです。
私は 表板側の軸線を このように設定しています。
この表板側の軸線は 側板部とも連動します。私は 特にブロック部との関係が重要だと考えます。
そして、これにネックやサドル、エンドピン、それから表板と裏板のパフリングより外側部が 加わることで 楽器的個性が生れていると思っています。
たとえばネックの水平面上での傾きは、この 1700年頃製作されたチェロのようになっていたと考えています。
このチェロは 1986年の接ぎネックの際に、ネックが向かって左回りに起こされていますが、元々NHK交響楽団OBのチェリストが使用していた時は もっと幅が狭くてボタン部もクラウン無しで小さい設定であった製作時の様子が残っていました。
ですから この写真の時点では ネックがだいぶん起こされていますが、元の傾きの名残で右に傾いている様子は確認出来ると思います。
このようなネックの役割のうち “ネジリ” に関しては チェロとヴァイオリンは割合が違うだけで類似していますので、私は 1950年代にアメリカで撮影された ヴァイオリン演奏を鏡像の動画にしてあるものが、最も分かりやすい資料であると思います。
そして、サドル位置も同じ理由で黎明期から 上写真のような位置として設定されていたようです。このチェロでは「オールド弦楽器」の復元楽器としてこのように表板と側板、そして裏板のバランスを設定しました。