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私は 18世紀末までの弦楽器製作者は 響胴の’節’と’腹’の原理をほぼ正確に理解し、実際に用いていたと考えています。
この投稿では 黄金期の弦楽器製作技術の特徴を見ていただき、そのあとで検証実験についてお話ししたいと思います。
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数年前に亡くなった ヤーノシュ・シュタルケル(János Starker 1924 – 2013 )さんが使用していたチェロは、1705年にベネチアで Matteo Goffriller ( 1659–1742 ) が 製作したものとされています。
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このチェロにはへり部分の’傷’が 沢山( おそらく200個程‥ )ありますので、A ゾーンと B ゾーンの’傷’もたやすく確認できます。
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この部分の’傷’は ストラディヴァリ・ソサエティの エドゥアルド・ウルフソン( Eduard Wulfson )氏が所有し、ナターリャ・グートマン( Natalia Gutman )さんが使用している グァルネリ・デル・ジェスが製作したとされる チェロとも共通しています。
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Bartolomeo Giuseppe Guarneri ( 1698-1744 )
Violoncello 1731, ” Natalia Gutman ”
このガルネリが製作したチェロは A ゾーンと B ゾーンの’傷’がとくに深くつけられています。
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それから 1982年にニューヨークで生まれたチェリスト、アリサ・ワイラースタイン( Alisa Weilerstein )さんが 2014年から使用しているチェロにも同じ特徴があります。
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この楽器は Domenico Montagnana が 1730年に製作したとされています。そして この楽器ではA ゾーンとB ゾーンの傷が 確認できるとともに、C ゾーンの ‘深い傷’ も見ることができます。
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因みに C ゾーンの傷は、ヨーヨー・マさんが使用している Domenico Montagnana が 1733年頃に製作したとされるチェロにも ついています。
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また C ゾーンの傷には このチェロのように ‘修復’として埋められていても、アーチの特徴などから 見分けるのはそれほど難しくない事例も多いようです。
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Old Italian Cello 1700年頃
( F 734-348-230-432, B 735-349-225-430, stop 403 ff 100 )
これらの特徴的な’傷’が『 オールド・バイオリン 』の時代の弦楽器に認められることを 皆さんはどうお考えになるでしょうか。
私は 同時期に製作されたへり部分がオーバーハングしていない弦楽器に 答えをもとめました。
Joachim Tielke ( 1641-1719 ) Viola da gamba / Hamburg 1683年
Joachim Tielke ( 1641-1719 ) Viola da gamba / Hamburg 1683年
Lira da braccio by Joannes Andreas ( Giovanni d’ Andrea) , Verona
Lira da braccio by Joannes Andreas ( Giovanni d’ Andrea) , Verona
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私は下の写真のように これらは ‘節’としての ‘折れ軸’を調整した痕跡と考えています。
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ところで 私は チェロを製作するとき ‘座標’や ‘折れ軸’としてこれらの線分を 表板で 100本、裏板は 60本設定し利用しています。
言うまでもなく、これらは 私が「オールド・チェロ 」などの分析から導き出したものです。
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ルーマニア生まれのチェリスト Mirel Iancovici さんが使用しているチェロもこんな感じです。
これらの軸は弦楽器にとって’節’の要素も兼ねる重要な条件だと 私は考えています。
そこでここから その効果を確認する実証実験についてお話ししたいと思います。
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皆さんは ヴィオール・オイル( Viol )をご存じでしょうか。ポリッシュオイルでは定番の ドイツ製の磨き油です。なお、現在の税込定価は2,160円となっています。
この製品がいつから輸入されているのか正確には分かりませんが、少なくとも私は 34年前から使用しています。
穏やかなポリッシュオイルで 成分的にも安定しているため、弦楽器工房はもとより 多くの演奏家にも愛用されています。
この ヴィオール・オイルの一般的な使用法は 布に少量をしみこませ ニス部に塗布して、その後に別の柔らかい布でふき取るように磨きあげるそうです。
残念ながら 効力が続くのは 2~3日ですが、ヴィオール・オイルで丁寧に楽器全体をみがくと、明らかに音色が良くなる場合が多いようです。
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さて本題ですが、私は 皆さんに この ヴィオール・オイル( Viol )と綿棒を使って ‘折れ軸’の検証実験をすることをお奨めいたします。
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実験は簡単です。綿棒を使って 私が 【 No. 2 model 】と呼んでいる図の 14本の赤線部に ヴィオール・オイル( Viol )を線状に塗布します。
上写真のように 紙定規を使えば なおさら良いですが、私の経験では フリーハンドでも十分効果があると思います。
下図のように 裏板は 2本ですが、表板は 7本ですのでよろしくお願いいたします。
私の経験では 綿棒を用い 下の写真に指定したように 白字の番号順で、14本の軸にヴィオール・オイルを塗布するのに必要な時間は 約1~2分位だと思います。
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私はフリーハンドで塗っていますが、下のように 紙定規で目測をたててから ガイドとして線状に塗布する作業のほうがやり易いとの意見もありました。
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私の研究では この【 No. 2 model 】は ヴァイオリンなどの2番線を中心に音色を改善する効果がみとめられました。
また、チェロや ビオラなどの場合は 下にあげた【 No. 3 model 】で試すことを私はお勧めします。
【 No. 3 model 】は 裏板の線分AB の角度がすこし違います。こちらのパターンは チェロなどの3番線、そして4番線の改善が見込めるのではないかと 私は思っています。
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この実験では ヴィオール・オイルを塗布していない状態で音階を弾いたあとで、 手早く塗布して すぐに試奏し その後柔かい布でふき取ってから もう一度試奏する。
これを 2セットほど繰り返せば実証実験としては十分ではないかと思います。なお、ヴィオール・オイルは ほとんどのヴァイオリンやチェロのニスに適合しますが 念のために 実験を終了する際には柔かい布でふき取るように磨くのを忘れないでください。
また、この実験は フルサイズ弦楽器だけでなく 分数サイズのヴァイオリンでも コントラバスでも効果が確認できると思います。
なお新作イタリーのようなアーチがフラットな弦楽器だと より劇的な変化が楽しめるのではないでしょうか。
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これらの軸は響胴に一定のバランスを生みます。
それは例えればバランスが取れずに歪みが溜まり振動板として機能出来なくなったコントラバスの表板に、下写真のように バスバーの形状を工夫して線分 abと 線分cdの曲がりを誘導し 表板に振動板としての機能を回復させるのに似ているのではないでしょうか。
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冒頭で述べましたように 私は 18世紀末までの弦楽器製作者は 響胴の ‘節’と’腹’の原理をほぼ正確に把握し利用していたと考えています。
そしてその本質的な証明は ヴィオール・オイルを塗布する実験方法で、ある程度は可能と考えています。
これは 先程例示した【 No. 2 model 】と【 No. 3 model 】を選択する過程でわかったのですが、ヴァイオリンやビオラ、チェロを演奏できる状態で準備して、塗布していない状態で音階を弾いたあとで 下の表板図から線分を一本だけ選びヴィオール・オイルを塗布したあとで再び音階を鳴らしてみてください。
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ヴィオール・オイルによって’軸線’と’響き’の関係を一本づつ確認するこの実験には 多少の時間と根気が必要になりますが、その結果は 皆さんに 弦楽器音響システムの意味を十分教えてくれると私は信じます。
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この投稿は以上といたします。
ありがとうございました。
2016-10-12 Joseph Naomi Yokota