西洋の思想史における “比率”の意味

おそらく 新石器時代にさかのぼれると思われますが、人体のカノン (  理想的比率 ) の追求は それぞれの時代を経るなかで、変化しながらも脈々と受け継がれました。

“The illustration on The Pioneer plaque”,   NASA
The plaques show the nude figures of a human male and female along with several symbols that are designed to provide information about the origin of the spacecraft.

ですから、現代においても “比率” という観点で意味を理解することは大切にされています。 例えば、これに関して非常に象徴的な出来事が 49年程前にありました。

それは 人類史上はじめて太陽系外に 宇宙探査機を向かわせるおりのことですが、探査機 パイオニア10号 ( 1972年 )、11号 ( 1973年 ) に人類からのメッセージ として この金属板 ( Pioneer plaque ) が取り付けられたのです。

つまり、この探査機は星間空間を漂う一種の “ボトルメール” の役割を持っていました。この計画は カール・セーガン ( Carl Edward Sagan 1934-1996 )、 フランク・ドレイク ( Frank Drake 1930 –  )さん達の提案によったものだそうですが、私は この “Pioneer plaque” で用いられた表現を実に興味深いと思っています。

 

さて、本題にもどりましょう。
先ほどまでお話ししたように、地中海地域でキクラデス偶像が盛んに製作された 青銅器時代後期 ( 紀元前3000年頃 )、ヨーロッパを中心とした西洋社会においての思想史は、特定のイメージの普遍化をめざす二つの流れとなりました。

それが、 “ヘブライズム”と “ヘレニズム” です。
これらによって、現代ヨーロッパ世界の思想が形成されていると考えることすら出来ます。人体のカノン (  理想的比率 ) の追求は、この潮流のなかの痕跡として認められるものです。

そこで先ずは、”ヘブライズム” について 少しまとめてみたいと思います。

“ヘブライズム”と “ヘレニズム” はともに「人間の完成、あるいは救済」を究極目標としている点では共通していますが、その立ち位置はまったく異なっています。

 

ヘブライズム ( Hebraism )

西洋の精神史をかたちづくる伝統的思想で、約言すれば『 聖書 』に発する世界観であり、ひいてはキリスト教の世界観を意味しています。

これは、神との一致において 知よりも実践を重んじ、深刻な罪の意識をもち、自己克服によって平安を求める努力をする‥ “神への立ち返り” である『 回心 』を特徴とし、人が “一神教” の立ち位置で森羅万象と向き合い、神への感謝の内に生涯をいきることを理想としています。

その導き手となる『 旧約聖書 』は長い期間 ユダヤ人社会のなかで受け継がれてきましたが、口頭伝承以外は禁止されていたために ユダヤ教においては 『 旧約聖書 』を 「タナハ」=「聖書 」と呼ぶほかに「ミクラー」( Miqra )=「朗誦するもの」とも呼ばれているそうです。その口頭伝承が文字にされ、最終的にはヘブライ語( 一部にアラム語を含んでいます。 )の 聖典として、ユダヤ人はもとより異邦の民にも伝えられました。

このような伝承方法が採られたために『 旧約聖書 』が、いつ頃成立したのかなどの推測は ほぼ不可能なようです。まあ‥ そもそも、冒頭の『 創世記 』からはじまる モーセ五書などは 時代特定には 馴染みませんし、その必要性が全くないのは 皆さんがご存じのとおりだと思います。

しかし、その後に続く『 ヨシュア記 』や『 士師記 』からは、その記述に 具体的な事件がふえていき、”最後の士師”である サムエルのところから『 サムエル記 』に移りながら、イスラエル部族連合体が王制国家に移行した顛末が記されています。

このサムエルが サウルをユダ王国の初代国王に指名し、そのサウルが統一王国完成の途上で戦死したので、ダビデがユダ王国の第二代国王に就き、その後に領域を広げ エルサレムを王都と定めてイスラエル王国 ( イスラエル・ユダ連合王国 ) の礎を築いたとされています。

「イスラエル」とは ユダヤ民族の伝説的な始祖ヤコブが “神から与えられた名前” に因んでいますが、このイスラエル王国の建国あたりから 現在の歴史認識と符合する内容が多くなりますので ある程度の年代特定はできるようになります。

Graphical overview of Jerusalem’s historical periods

これによって、キリスト教がヨーロッパ世界に据えられるまでを見てみましょう。

現在でも諸説ありますが‥ まず はじめに、ユダ王国が建国されたのは 紀元前1021年頃と推測できます。そして、何度かの遷都のあとで エルサレムを王都として 紀元前1003年頃 にイスラエル王国 ( イスラエル・ユダ連合王国 ) は 成立したと考えられます。